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映画スラムダンクの山王戦から伝わる想い「痛みを乗り越え前へ進め」

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映像作品26年ぶりとして復活した映画スラムダンク:「THE FIRST SLAM DUNK」は、山王戦が描かれている。主人公は湘北高校バスケ部2年ポイントガード宮城であり、宮城の少年時代のストーリーから始まる。週刊少年ジャンプでスラムダンクが連載していたとき、宮城の少年時代は描かれていなかったから、新たな視点だ。

漫画スラムダンクの作者兼映画「THE FIRST SLAM DUNK」井上雄彦監督は、映画と同じく25~6年の人生を重ね、どんな作品に仕上げたか。
個人的な感想だが、新しい技術はアニメとは思えぬリアリティなバスケの動きは瞳孔がMAXで開くし、今までのスポーツアニメにはない臨場感が最高だった。主題歌は「The Birthday – LOVE ROCKETS」エンディングは「10 FEET – 第ゼロ感」で、アニメのスラムダンクとは違ったスピード感を体感させてくれた。
とくに、山王戦試合終了前残り数十秒から流川と桜木のタッチまでの演出はかっこよく、結果を知っていてもハラハラするものだったし、最後あの音で私は昇天した。本当に満足だった。ただし、これらは1回目に視聴したときの感想だ。

面白かったから2回目を視聴した私は、少し違った視点で楽しむことにした。その点を書きたいと思う。

映画スラムダンク(THE FIRST SLAM DUNK)

スラムダンクは木暮を応援せよ!実力不足だとしても。

10代の私の好きなキャラは三井寿だった。挫折から復活したストーリーに共感を持っていたし、シューターというポジションもかっこよかった。もちろん今でも好きなキャラである。
だけど私も歳を取った。才能ある多くの若者と自分を比べて、無力さを痛感してきた人生だった。だからこそ、今となってももう一人好きなキャラがいる。

木暮公延だ。

木暮は、やったもん勝ちの2人にスタメンを奪われた。その悔しさがあったのではないかと想像させる副キャプテンだ。
怪我で勝手にいじけてバスケ部を離れグレただけでなく、湘北バスケットチームに対し暴力事件をおこす。さらに図々しく「バスケがしたいです」と、シレっとチームに戻ってきた三井寿。そして先輩への礼儀も知らず、監督にも失礼な態度、チームの和を見だす初心者桜木花道。社会にこんな人がいたら許されるのかというやったもん勝ちの2人である。
木暮は、高校3年最後のインターハイへの挑戦で、このやったもん勝ちの2人にスタメンを奪われてしまったのである。実力や才能で劣るからである。

やったもん勝ちや実力や才能ある者が上に行く。そして、グレたわけでもなく、まじめで礼儀正しい人が下になる。社会と同じだ。やったもん勝ちだろうとなんだろうと、実力あるものが上に行くのは理解できなくもないが、納得できない気持ちもある。
「正直者は損をするのか? まじめに頑張ってきても報われないのか?」そんな私の気持ちを象徴する人物が木暮である。漫画スラムダンクの陵南戦、木暮の3ポイントでの活躍、感動した人は少なくないだろう。若き日の私はこの3ポイントが決まって喜び、歳を重ねた私は泣いた。最高の名場面だ。

映画「THE FIRST SLAM DUNK」は、そんな木暮がほとんど活躍しない山王戦だ。それでも、自分が木暮だったらどう思うかと考えなら視聴すると、桜木と赤木の成長は気づきを与えてくれる。

映画スラムダンク山王戦:木暮の痛み

山王戦はタッチの演出が熱い。木暮がOUT桜木がINの選手交代のとき、2人はタッチするわけだが、このタッチから激熱の展開が始まり、最後は不仲な流川と桜木の感動的なタッチで終わる。

その木暮と桜木のタッチは、真面目に頑張ってきた者からやったもん勝ちの問題児への交代とも言える。木暮の3年間の頑張りを想像すると心が痛む。
山王相手では、真面目だけど実力不足の木暮はスタメン起用できない。逆に問題児だがリバウンダーとしての才能が抜群な桜木はスタメンとして必要だ。だから監督の安西は、桜木に作戦を伝えるため一旦ベンチにさげた。
私の中の社会人としての常識は、真面目に頑張ってきた木暮を応援したい。問題児桜木が重要視されるのはなんともやりきれない。実際に自分が木暮の立場だとしたら、桜木を妬むに違いない。

木暮の無念は桜木の活躍で癒される

木暮にとっては悔しい交代だが、湘北チームにとっては良い交代だ。そして、この交代から桜木が成長し反撃が始まるのも事実。
桜木は交代後、自分の得意なことリバンドに集中し、こぼれ球を立て続きにむしり取り、チームにセカンドチャンスを与え続ける。そのリバンドは、同時に相手のチャンスを奪うことでもある。バスケット経験数ヶ月の素人であることがメンタル面で強みになっていて、山王との絶望的な戦力差でも勝利をあきらめない強みを発揮する。
赤木春子にモテたいためにバスケを始め、試合中はチームメイトの流川に勝つことばかりで自分勝手なプレイばかりの桜木が、試合中に急成長していくのだ。

この桜木の成長は、木暮にはどう映るだろうか。

たとえ妬む気持ちがあったとしても、チームのために奮闘する桜木のプレーがもたらした結果は、木暮自身にはできない活躍であるのはたしかだ。だから、自分が桜木よる劣る理由に納得できたであろう。
では、モチベーションはどうだろうか。自分ももっと頑張ろうと思うか、才能がすべてと思ってあきらめるか、どちらであろうか。それは木暮にしかわからない。
高校3年生として最後の夏のインターハイで、まともに試合に出れなかったのだから、心の奥に痛みはあろう。

やったもん勝ちの人が好き放題やって罰せられない世の中では、真面目な人はやりきれない。ただ、やったもん勝ちの人が、真面目にチームのため、人々のために努力してくれたとしたら、真面目な人も納得できるだろう。
もし自分がやったもん勝ちするようなことがあったとしたら、せめて誰かのために一生懸命頑張りたいと思う。

木暮よ、3年生夏の悔しさは、その痛みに負けずに生きてほしい。きっと自身を成長させるはずだ。頑張ってほしい。(とアドバイスしてるが、これは妄想だ。)

漫画スラムダンク赤木の目標は、チームメイトには息苦しい

次は山王戦における赤木の復活劇に注目する。そのためには、センター赤木の背景を押さえておくに必要がある。

漫画スラムダンクファンならご存知のとおり、赤木の夢は全国制覇だ。だから、自分にも他人にも厳しさを要求している。それは、一流のアスリートなら厳しいのは当たり前の感覚だろうし、その視点なら赤木の気持ちは理解できる。
一方で、全国を目指していない選手からすれば、無理矢理考えを押しつけられているようで、一緒にいて息苦しさがあるだろう。そんな人たちの視点で見れば、この2年生のときの赤木は、暴君と言われてもしょうがない状態だ。
まあ、実際に赤木も問題児だ。スポーツ点の店長のほっぺたをつねったり、同僚をぶんなげたりと、手が出るタイプだからだ。
そんな赤木は、自分と周りとでバスケにかける情熱の違いとチームメイトに恵まれないためにチームが試合に勝てない。だから赤木は苦しむ。そこが読者が共感するポイントである。一方で前述したとおり問題児としての一面もあり、自業自得と思える面もあるから共感しない読者もいるかもしれない。

映画スラムダンクの赤木は、嫌味な先輩のせいで心に痛みを持つ

では映画の赤木はどう描かれているか。漫画と映画で違うのは、赤木というより赤木の先輩の人間性だ。漫画はいい人なのだが、映画は嫌な奴なのである。

このキャラ変更はなぜか?

それは、漫画にはない赤木の心の痛みを演出するためであろう。漫画の赤木は、前述のとおり同情の余地がない素行がある。しかし、映画の赤木は、先輩に嫌味を言われる可哀想な奴でもあるため、共感できるのだ。少なくとも私は漫画の赤木より映画の赤木に同情した。この赤木の先輩のキャラ変更は、効果的だったと思う。理由は後述する。

そして、映画の赤木の過去の出来事において、次の2箇所は、自分が木暮だったらと思って観ると気づきがある。

映画スラムダンク:赤木の練習シーンの自己中心的なとこ

まず一つ目は、湘北バスケ部の練習シーン。
1年生の宮城から2年生の赤木へパス。しかし通らず、赤木は宮城に対しパスミスを指摘する。むっとした宮城は反応できていない赤木が悪いというようなことを言う。

この宮城とのやりとりの赤木は厳しいというより、自己中心的のように見える。宮城の反発は当然だ。そんな様子を見ているであろう木暮も今後のチームがどうなるのか、心配が絶えないとこだろう。
木暮からすれば、これから湘北は大丈夫か?と思わせる場面なのである。

映画スラムダンク:試合終了後の赤木と先輩のやりとり

二つ目は、3年生の引退試合終了後のロッカールームのシーンだ。
試合終了後、ロッカールームで引退する3年生が、カタブツ赤木と問題児宮城のいる湘北は今後だめだろう的な嫌味を言う。それを聞いた赤木は「宮城はパスができます」と宮城を認める発言をする。宮城も赤木を見る目が変わる。

このシーンを観たとき、私は赤木の成長に目頭が熱くなった。自己中心的な人物から、相手を認める人物へと成長した瞬間だからだ。そして、この赤木の台詞が輝くのは、3年生の先輩竹中がクズ台詞を吐いたからである。
映画で、赤木の先輩をクズな奴に変更したのは、この赤木の成長を魅力的に描くためであろうかと思われる。もし、漫画のようないい先輩なら、カタブツ赤木と問題児宮城のいる湘北は今後だめだろうなんて言わないだろうから、赤木の心の痛みからの成長は演出できない。

そして、木暮にはこのやりとりがどう映るだろうか。赤木がいいキャプテンになるように見えたのではないだろうか。湘北の未来が明るいことを予感させるではないか。あとはチームメイトに恵まれればいいだけだ。そしてチームメイトはどうなったか。もうおわかりであろう。

自分の高い目標をメンバーに押しつけるだけでは、良いリーダーとは言えない。メンバーのことを認め感謝しないとよいチームは作れない。私はリーダーなどになりたくないが、人を認めることは忘れないようにしよう。

映画スラムダンク(THE FIRST SLAM DUNK):まとめ

痛みから逃げたとしても・・・

スラムダンクは、才能ある素人桜木が急成長していく物語だ。同時に、真面目な選手が桜木に敗北する物語でもある。
スタメンを奪われた木暮だけではない。翔陽のセンター花形、海南のシューター神も、桜木にはやられている。ある意味、才能がすべてだと言わんばかりの作品なのである。湘北の安西監督も才能に注目し選手を育てている。だからこそ私は安西監督よりも、努力を重視する海南の高頭監督の方が好きなのだ。高頭監督の「海南に天才はいない。だか海南が最強だ」は、安西監督の「あきらめたらそこで試合終了ですよ」に負けない名台詞だと思う。

そんな才能がすべてと言わんばかりの漫画スラムダンクだが、映画「THE FIRST SLAM DUNK」として蘇ったことで、若干メッセージを変えてきているようだ。兄が亡くなり傷つく宮城、そんな兄と比べスター選手ではない宮城が、亡くなった兄との共通の夢「打倒山王」を果たすこと。周りのメンバーとバスケに対する温度差に苦しみ、先輩にまで嫌味を言われしまう自己中心的な赤木が、人を認める発言をしていること。それらのシーンに痛みを乗り越えることや一生懸命頑張ることの大切さがあらわれている。

実際に「THE FIRST SLAM DUNK re:SOURCE」の、井上雄彦監督のインタビューを読むと、その考察はそれほど外れていないように見える

「そう、一人一人が一歩でいいから前へ出ることで変われることを描きたかったんだ。痛みを経験して、それでもなお一歩前へ出て殻をやぶる。この視点こそ、今自分がやる意味になる」

「自分が描いた漫画を見直すと、当時は若さもあって単純に上り坂を駆け上がっている。やたらと前へ出る部分にフォーカスしている。それは例えば勝ち負けの単純な価値観だったり。だから、作中にある別の視点を見落としている。光が当たっていない部分がたくさんあることに気付いて、今の自分だったらそっちの方を描きたいと強く感じました。かつて描いたものは、まだ痛みを経験していない状態で前に出ていた。そうではなく、弱い者や傷ついた者がそれでも前へ出る。痛みを乗り越え、一歩踏み出す。これが今回の映画のテーマだと。」

THE FIRST SLAM DUNK re:SOURCE(P78~79)

この井上雄彦監督のテーマは、令和という今の時代こそ合っている気がする。当然スラムダンクを視聴したことがない若い人にも届くに違いない。
また、スラムダンクの山王戦は、今回取り上げた桜木や赤木だけでなく、宮城、流川、三井も成長するし、その5人がそれぞれ違う成長を見せてくれているので、自分がどのタイプの成長に感動できるか、注目してみよう。機会があったら、視聴してみてはいかがだろうか。

井上監督のテーマに対し、個人的に追加したいメッセージがある。
「人生、痛いのは嫌だろう。痛みを乗り越えることができず、逃げるときもあろう。でも、どうぜ逃げるなら前に逃げよう。」
ほぼ、自分宛だ。

今回はである調で書いてみました。ここまでお読みいただきありがとうございました。

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