議論が白熱した時、あるいは口論の時、つい言いすぎてしまうことがあります。口から言葉が飛び出すまでのわずかな瞬間、「それを言っては駄目だ!」「よし言ってやれ!」と相反する感情が闘いますが、結局攻撃しようという気持ちが勝ち、言い過ぎてしまうのです。後から反省しても、時すでに遅し。
一方、言いたいことを言えない時は、爆発しそうな感情を必死で押さえ込むせいで、ストレスが溜まります。そんな日は、一日中イライラが収まらない状態です。
言い過ぎた時も、言いたいことを言えない時も、後になってマイナス感情に支配されるのは変わりがありません。毎回そんなことを繰り返したとしたら本当に馬鹿馬鹿しい話で、こういうことが自分の成長を妨げている要因になるとつねづね思っていました。
「言いたいことを言っても、相手を傷つけない方法があるものなのか?」あります。それが『アサーション』というテクニックです。
目次
マンガでやさしくわかるアサーション
アサーションとは?
アサーションとは何でしょうか?
アサーションとは「自分も相手も大切にする自己表現」という意味です。それは、日ごろの人間関係において、自分の言いたいことを大切にして表現すると同時に、相手が伝えたいことも大切にして理解しようとするコミュニケーションです。
マンガでやさしくわかるアサーション(P3)
コミュニケーションは自己主張か引っ込むかのパワーバランスかなと思ってましたが、「自分も相手も大切にする自己表現」という都合のいい方法がああるのです。
では、「自分も相手も大切にする自己表現」」とは何でしょう。それを理解するためには「自己表現」を理解する必要があります。
アサーション:3つのタイプの自己表現
まず、自己表現には3つのタイプがあります。
⇒非主張的自己表現
自分の考えや気持ちを言わず、言いたくて自分を抑え、結果として相手の言いうことを聞き入れてしまうことを「非主張的(ノン・アサーティブ)自己表現」と言います。
~(中略)~
⇒攻撃的自己表現
「攻撃的自己表現」は非主張的自己表現の逆で、自分の考えや気持ちを伝えることはできるのですが、自分の言い分を一方的に通そうとして、言い訳を相手に押しつけたり、言い放ししたりすることです。
~(中略)~
⇒アサーティブな自己表現
それでは、アサーション、つまりアサーティブな自己表現とは、どんな表現なのでしょうか。それは非主張的自己表現と攻撃的自己表現の黄金率とも言える自己表現です。マンガでやさしくわかるアサーション(P52~57)
『非主張的自己表現』と『攻撃的自己表現』の説明は意味がわかると思います。しかし、『アサーティブな自己表現』の説明「非主張的自己表現と攻撃的自己表現の黄金率」は、今いちよくわかりません。漫画版である本書には具体例がありませんでした。そこで、漫画版と同じ著者平木典子氏の『改訂版 アサーション・トレーニング ―さわやかな〈自己表現〉のために』という、アサーション理論の詳細が学べる本から、『アサーティブな自己表現』の具体例を引用したいと思います。
[親子関係] あなたには高校生の息子がいます、夏休みのある晩、ともだちと花火大会に出かけ、夜中の二時に帰ってきました。あなたには、十二時には帰ってくると思っていたので、何か起こったのではないかととても心配して、イライラしながら待っていたのでした。非主張的
帰ってきたのを見て、息子には何も言わず、黙って眠りにつく。攻撃的
「一体、今まで何をしていたんだ!今何時だと思っている!一晩中人を寝かせないつもりか。まったく思いやりも何もない奴だ」と、いきなり怒鳴る。アサーティブ
「とても心配したよ。十二時には帰ると言っただろう。だからすごく気になってね。大丈夫だったか?遅くなると電話してほしかったな」と、相手を責めるのではなく、しかしはっきり自分の気持ちを伝える。改訂版 アサーション・トレーニング ―さわやかな〈自己表現〉のために(P20~21)
この例のアサーティブな表現では、攻撃的表現のように怒鳴ることなく「遅くなると電話してほしかったな」という自分の気持ちをしっかり相手に伝えています。アサーティブな表現なら、怒る人が少ない気がしませんか。このようなアサーティブな表現で自己主張することができれば、対人関係でのトラブルが少なくなるでしょう。
しかし、アサーティブな表現をすると言っても簡単ではありません。慣れているなら苦労しませんが、慣れていない場合、どう表現することがアサーティブであるかわからないと思います。
そこで、アサーティブな表現の練習として『DESC法』を使うとよいでしょう。
DESC法とは
アサーティブな表現づくりをするためのステップである『DESC法』について説明されている箇所を読んでみましょう。
これは、英語の【D】【E】【S】【C】のステップを踏んで自分の表現をつくっていく方法で、北米でアサーションの訓練をしているバウアー夫妻が開発したものです。
【D】Describe・・・自分が対応しようとしている状況や、相手の行動を描写する。
【E】Express,Explain,Empathize・・・自分の感情を表現・説明する。
【S】Specity・・・相手に望む行動、妥協案、解決策などの特定の提案をする。
【C】Choose・・・提案に対する肯定的・否定的効果を想像し、その結果に対する選択肢を示す。マンガでやさしくわかるアサーション(P192)
説明だけでは理解しずらいと思いますので、『DESC法』の例も見てみましょう。
たとえば、長電話をそろそろ切り上げたいとき、このステップを踏むと以下のようなセリフをつくることが可能でしょう。
【D】「話し始めてから1時間が経ちましたね」
【E】「私は、今日はとても疲れていて、集中力が切れてきました」
【S】「今日の話はそろそろ切り上げて、続きはまたにしませんか」
【C】「切り上げてもよければ、近日中に私から連絡します。もし、このまま続ける必要があるなら、その話はあと10分ぐらいでできますか」マンガでやさしくわかるアサーション(P192)
例を見ることで、少しわかりやすくなった気がしますがいかがでしょうか。
【S】で、自分の意見を提案した後の【C】で、相手が提案を肯定したときの選択肢と、否定したときの選択肢を表現するところが工夫するところです。
例えば私の場合、社内システムの運用保守が仕事ですので「パソコンがトラブルになったので、すぐに直しにきてくれ」と至急対応メールが届くことがありますが、別件対応中だとすぐという要望に応えることができません。しかし、役職が高い人などからのメールだった場合、待たせてしまったら業務影響が大きくなる可能性があり優先度を上げなくてはならないこともあります。そういう場合は、次のように伝えてみます。
【D】「パソコンがトラブルになったので、すぐにヘルプに来てほしいとのことですね」
【E】「申し訳ございません。私は今、別の作業中ですぐにお伺いすることができません。」
【S】「そこで解決手順を案内させていただきます」
【C】「お手数おかけしますが、解決手順をお試しいただけますか? 難しいようでしたら、都合つき次第お伺いします」
【C】で代替案の提示です。すぐに来てほしいという相手の要望は、【E】でやんわり断りつつ、「来てほしい」の部分は、時間を都合がつくときという形で、受け入れるようにしてます。こう返事するとあまり相手とはトラブルにはなりません。逆に「行けません」と断るだけだと「以前はすぐに来てくれた」とか「誰々さんはすぐに来てくれた、人によって対応が違う」など、面倒な話になることがあります。ですから、『DESC法』で回答するのです。似たようなケースなら、だいたい同じような構成の文章でいけます。
私のことになりましたが、このような方法で『DESC法』のトレーニングをしています。
いきなり口頭の会話で『DESC法』表現するのは難しいと思いますので、まずはメールなど文章で練習することから始めてみることをおすすめします。
マンガでやさしくわかるアサーション:まとめ
自己主張の方法を覚えたからには遠慮せず自己主張しよう
私が最初にサーションを学んだのが今から3年くらい前(2017年頃)です。それまでの私の自己表現といえば、『非主張的自己表現』か『攻撃的自己表現』のどちらかばかりだったと思います。
もちろん相手とトラブルを起こしたいわけではなく、できることならトラブルになりたくないのですが、相手が良い人ばかりとは限らないため、ときにはどうしても我慢できず、余計な一言を言ってしまうことが多々ありました。
人として自分を成長させたいと努力しているとき、人間関係のトラブルを起こしてしまうたびに、積み上げた積み木を自ら崩しているようで反省が絶えませんでした。自分自信で自分の成長を止めてしまっることに虚しさを感じる日々でした。
カウンセリングスキルをスクールで習っていた際に、アサーションを学んだとき、「こんな自己主張の方法があったのか」と驚いたものです。その後「自分も相手も大切にする表現」と検索すれば、アサーションについて学ぶことができたと知ったときは、「もっと早くアサーティブな表現を知ることができたんだ」と自分の無知さを本当に後悔しました。
今はアサーティブな表現を使うようにしているので、無駄なトラブルは減ったと思います。アサーティブな表現を覚えただけでなく、そういう姿勢が自分という人間を磨いてくれているのもトラブル減少につながっているのかもしれません。
人の悩みの原因の多くは、人間関係によるものです。アサーションを覚えたところで、全ての人間関係のトラブルが解決するわけではないと思いますが、自己主張したいときにはうまく活用していただきたいと思います。同時に自己主張の方法を覚えるわけですから、遠慮するのはやめましょう。
なお、今回紹介させていただいたのは1時間程度でアサーティブの概要が掴める漫画版です。理論の詳細を学びたい場合は、書籍の方が良いと思います。
書籍:『改訂版 アサーション・トレーニング ―さわやかな〈自己表現〉のために』