「あのさ、作業を始める前に忠告して、君もわかったと言ったじゃん。なのに何でまた同じところを間違うかな」
正しい手順で行えば5分もかからず終わる作業なのに、手順を間違えてトラブルにした同僚への言葉です。優しさの欠片もない言い方しているのはクズな私です。
1年以上同じ仕事をしているのに、いつまで経っても指示待ちで、仕事を間違えてばかりの同僚に対しストレスが限界だったため口から飛び出しました。後できつく言ってしまったことに、後悔するのはいつものこと。
「相手がどんな人であっても、落ち着いて接し、良い影響を与えることができるような人物でありたい」そんな理想像を目指し、自分を成長させようと努力しているのですが、職場でさまざまなタイプの人とやりとりしていると、ネガティブな感情が芽生え、なりたくない自分に逆戻りするのです。
そんなとき、読み返すのが、私の理想像のモデルである家族療法家「東 豊」先生の本です。東先生の人や問題の捉え方は、気づかされることが多く、負の方向に傾いた自分をプラス方向に変えてくれます。
そんな東先生の書籍で、漫画版第2弾「マンガでわかる家族療法2」を、紹介させていただきます。
目次
マンガでわかる家族療法2
なぜ、家族療法の本がいいのか
家族療法の本はたくさんありますが、私は東豊先生(東豊wiki)の著書に関しては著者買いしております。
理由としては、東先生の家族療法の本は、理論の説明よりも「セラピストとしてクライアントと向き合うにはどうあるべきか」というセラピストとしてのあり方が学べ、読むたびに、人にきつく当たってしまうことに後悔したとき、自分の在り方を見つめ直すのことができるからです。
また、東先生が担当された事例一つ一つに、心の問題を抱えながら強く生きていこうとする人の強さを感じることができ、弱い自分が励まされるのも理由のひとつです。例えば、私のような若輩ものには想像できないような苦しみが原因で心の病になった人の、カウンセリングを受けてでも立ち直ろうと這い上がる力、病から回復していく生きる力、そんな生きる美しさに触れると涙することすらあります。
それに、クライアントを支援する東先生の、まるで魔法のようなカウンセリング技法や人としての姿勢に、憧れを抱いております。その姿勢は臨床の現場だけでなく、普段の職場でも活かせるはずだと信じており、「相手の自尊心を傷つけることなく、相手に良い影響を与える人になりたい」
「相手がどんな変わった人であっても、落ち着いて接し良い影響を与えることができるような人物でありたい」そんな自分の理想像を目指すためには、東先生の本を読むことがかかせないのです。
マンガでわかる家族療法2の事例
ここで、『マンガでわかる家族療法2』で紹介されている症例を、ネタバレにならない程度に要約します。なお、前作『マンガでわかる家族療法 親子のカウンセリング編』は親子の問題でしたが、今回は大人の問題を扱っております。
①霊感商法vs家族療法
37歳会社員の夫、妻は霊能力者。
全身倦怠感に教われる夫の症状は妻の霊感療法で数時間は苦痛から解放されるが治るわけではない。セラピストはどのように介入し、症状が改善したか?
②演歌妻、夫を救う
不潔恐怖症(手洗い脅迫)の夫。気になると2時間半も手洗いが続く。そんな夫の症状消失を狙うべく、セラピストが出した指示は?
③石まわし
パニック障害で乗車恐怖、外出恐怖のため、通院以外はほとんど引きこもっている青年の事例。症状改善のためにセラピストが指示した儀式とは?
④供養の酒
普段は妻の言うことをよく聞く夫だが、お酒を飲むことに関しては言うことを聞かない。酒癖が悪く、怒鳴り散らす体たらく。そのせいだろうか、2人子供がいるが、長男は不良仲間と夜遊びするようになる。妻は夫のお酒を辞めさせたいが、セラピストの意外な指示は?
⑤縛りからの解放
5年間過食嘔吐を繰り返す女性の話。
⑥セラピスト失格
うつ病の妻とその夫への対応、セラピストが致命的とも言える誤った対応をしたことでどうなってしまったか。その出来事から年月が経ち、同じ症例の夫婦へどのように対応したか?
⑦受容の達人
うつの妻とその夫、その二人を診ている精神科医が、セラピストのところへ家族療法を受けにきた。セラピストは気づく。問題が持続するシステムに精神科医も含まれていることに・・・
⑧鳴門のうずしお
希死念慮が強く、自傷他害の恐れがあるため保護室(ほとんど何も置かれていない部屋)にいる女性。過食嘔吐も繰り返しており、「動物が部屋やベットの上で走り回っている」等の幻視が出現している。主治医も頭を抱える症例にセラピストはどう向き合っていくのか。
マンガでわかる家族療法2の事例から学べること
壊れてかけていた人間関係が東先生の介入によって劇的に改善していくストーリーは、いつ読んでも心が温まります。とくに⑧鳴門のうずしおは、私が気に入っている事例でして、何度読んでも涙が浮かんでしまいます。
そんな本書の全編を通して何が勉強になるのか。それは、状況の改善に、相手の状況を利用するという点です。
家族療法には、「利用法(utiization)」といった考え方があります。これは、面接をスムーズに進めていくために、対象者がすでに所有しているもの(症状、行動、ルール、癖、嗜好、価値観や考え方など)をうまく使うことです。
マンガでわかる家族療法2(P56)
夫の煙草をやめさせたいと思っている妻がいるとします。その夫に対し妻が「体に悪いから禁煙しなさい」と言っても、夫が「ストレス解消になるから体にいい」と思っているなら、きっとやめてくれません。逆に、夫が体にいいと信じているのを利用し、「煙草ってストレス解消にいいよね」と認めつつなんらかの介入をし、その介入を夫が受け入れることができたら、禁煙させることができるかもしれないのです。
その「なんらかの介入」は人によって違うため、どんな介入方法なら本人が受け入れるのかをセラピストが面接の中で観察し探っていくわけですが、複雑な人間関係をどのように観察し、相手の状況を利用してどう症状改善につなげているか、そのコミュ二ケーションの取り方や人の観察の仕方は、カウンセリングの場だけでなく、実生活においてもかなり役に立つと思いますので、家族療法的な視点は学ぶ価値ありです。
マンガでわかる家族療法2:まとめ
「人にきつく当たってしまう 」そんな病気が浄化される
東先生の本を読了後、「間違えてばかりの同僚にイライラしているだけでいいのか?」と、自問しました。「なんど言われても間違えてばかりいるのは、職場の人間関係のシステムの中で同僚の間違いは何かの役に立っているからではないか?」と家族療法のように考えてみたのです。
すると、同僚は間違えることで正しい手順を私から教わることができるため、安心して仕事ができるのかもしれないと見立てることができます。つまり本人は自立したくなく、指示をしてほしいから間違え続けているのだとしたら(無意識レベルで)、「自分の力でやりましょう」という私のスタンスは間違っているわけであり、指示してほしい同僚は間違え続ける可能性があります。そして、実際に間違え続けてます。私と同僚の人間関係のシステムを私が「対等」にしようとし続ける限り、この間違えるという行動は消えない可能性があるわけであります。
しかも、私と同僚の人間関係のシステムを「お互い対等」に変える場合、「自分でやって」といって突き放すのは効果がないとわかっていますので、同僚の指示されたいという状況を利用しつつ、気付かれないように自立する方向にもっていくことがスムーズでしょう。
であるならば、次のような戦略を立てることができます。
①同僚が間違えたら、”私の指示”で、同僚自身の手で手順書を修正してもらう。
②修正した手順書をチェックし手順内容に問題がないなら、あなたの手順書をみんなが使うと言う。
③その手順書をチームの全員にも使ってもらう。
この戦略の狙いは、次のようになります。
・指示されるのが好きならば、手順書を直してという指示は受け入れてくれそう(同僚の心理を利用する)
・間違えるたびに手順書を直すという仕事が増えること(同僚の仕事量が増える=同僚の状況がひどくなる=間違えない方がマシ)
・自分が作った手順書を職場の全員が使うことなる(事実上同僚が自立していることになる=人が作ったものを使わないため)
仕事を間違えるたびに、仕事が増えるならどうするか? 間違えないようにするかもしれません。つまり、間違えるという行動を出さなくなるかもしれません。自分の手順書が使われ、周りから質問されたり、教えることになったらどうなるか?事実上、自立したことになるのではないか。
と、今、家族療法の真似をして同僚への対応方法を考えてみましたが、例えばの話であることはご理解ください。実際にはもっと丁寧に同僚の特徴を考えて対策するべきでしょう。しかし家族療法のように改善するとしたら、上記のような考え方をして、改善を図ることになります。非常に難しいかもしれませんが、相手を傷つけることなく変化をうながせるなら、家族療法のコツを学ぶ価値はおおいにあります。
心理療法の本など、カウンセラーでもないサラリーマンなら普段は気にしないでしょう。しかし、「人にきつく当たってしまう 」という、そんな病気にかかっている私ですら、東先生の書籍には救われますから、コミュニケーションのあり方を真剣に考えてる方には読んでほしい書籍です。