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社会はギスギスしていて基本的に自分勝手な人ばかり、でもそれは当然のこと。だからこそ、人間関係の衝突をうまくかわしていくような心の器が必要です。そんな器を持っていない私は、「人とのかかわりは最小限でよし、むしろ避けた方が楽、コミュニケーションの努力なんて無意味」と考え、忍耐によって自分の心の器を大きくする努力などしませんでした。
しかしながら、争っている2人の間に入って、心理学のテクニックを使い、2人の関係をよい方向に変えることができる心理テクニックを持っているとしたら、どうでしょうか。面倒なコミュニケーションを避けるより、変えることができた方が、人生は生きやすいのではないでしょうか。そんな言葉の使い方や心理のテクニックあるなら学んでみたいものです。
今回紹介する心理療法の本は、対人関係の改善につながる言葉の使い方や心理テクニックが満載です。本書のテクニックを日常にいかせるのであれば、対人関係も良好を維持でき、自分の器も拡大するかもしれません。人の器とはなにか、それをきづかせてくる本なのです。
目次
セラピスト誕生
争い合っていた2人が、第三者の介入により、良好な関係に変わる。なぜ、第三者にそんなことができるのか?
それは、システムズアプローチという心理療法を理解すれば可能であることがわかりました。
システムズアプローチとは
システムズアプローチとは何か、著者の東豊氏は、本書の「はじめに」の中で次のように語ってます。
システムズアプローチとはシステム論に基づいた対人援助の総称です。
個人や集団を「システム」として円環的に理解します。そして、「システム」に変化を促すといった意識をもって、さまざまな方法で対象に働きかけます。個人、家族、学校、会社、地域など、対象を選びません。セラピスト誕生(はじめに)
『システム』とか『円環的』とは何のことでしょうか?
システムとは「部分と部分が相互に影響を与え合っている全体。あるいはそこで繰り返し見られる円環的な相互作用のパターン」のことです。
部分は全体のあり方に規定され、全体は部分のあり方に規定されています。部分は全体のあり方の結果であり、全体は部分のあり方の結果であるということです。セラピスト誕生(P2)
『円環的』とは、原因と結果が複数あり、相互に結び付いて、原因をひとつにできないような状態です。対して直接的というのは、原因と結果がひとつに結びついていて、原因をひとつに特定できる状態です。
つまり、人間関係において、円環的な相互作用がパターン化していれば、一つのシステムとして見ることができます。ある職場(架空の職場です)を例として、見てみましょう。
上司は信頼しているAさんに頼みごとをしますが、上司が嫌いなAさんは、「そんなことくらい自分でやれ」という想いが強く、いつも断ります。仕方なく上司はBさんに依頼します。頼まれたBさんは仕事が忙しいのですが断れない性格で、「なぜ、いつも自分ばかりに頼んでくるのだろう、嫌がらせかもしれない」とネガティブに考え、Aさんに愚痴をこぼします。愚痴を聞かされるAさんは、同情しつつも具体的なアドバイスもできないし、自分のせいかもしれない罪悪感もあり、電話かけるふりやトイレいくなどして愚痴から逃れることが多くなると同時に、現況である上司を益々嫌いになります。Aさんは、だんだんと孤独を感じ、ストレスが溜まり続け、心の病気になってしまいました。上司は自分が仕事を頼んでいることで、Bさんがメンタル不調になってしまったことに気づいておりません。
この職場では、①上司はAさんに仕事を依頼⇒②Aさんは上司が嫌いだから断る⇒③上司Bさんに頼む⇒④Bさん、断れず引き受け、Aさんに愚痴⇒⑤Aさん、愚痴から逃れつつ、頼みごとばかりの上司のせいだと益々上司が嫌いになる⇒①上司はAさんに仕事を依頼・・・を繰り返しております。
この3人が同じ職場にいる限り、今後も同じパターンが繰り返される可能性がありますので、この一連の動きを『システム』とみることができそうです。
シうテムズアプローチとは、このような『システム』の流れを確認し、第三者が『システム』の流れを変えていくよう介入する手法のことです。介入して、Bさんが抱える症状や問題を除去していきます。
具体的な方法として、Bさんのためにシステムズアプローチ的に介入するなら、パッと考えても次のような方法を思い浮かべることができます。
①上司からAさん、Bさんへの仕事依頼をストップするよう働きかける
⇒上司からの仕事依頼がなければ、AさんBさんは苦しむことがないため
②Aさんが断らないような働きかける
⇒Aさんが断るからBさんへ仕事がいくため、Aさんに仕事を引き受けてもらう
④Bさんが愚痴を言わなくて済むようメンタルのケア、仕事の効率化アドバイスをする
⇒ネガティブな感情が解消すれば、Aさんに愚痴を言わないかもしれない
⇒手持ちの仕事が早く終われば、上司の仕事が負担にならないかもしれない
⑤なんらかのやり方でBさんの愚痴を聞いてもらう(昼食、アフター5)。そういう気持ちになれるようAさんをケアする。
⇒AさんがBさんの話を聞いてあげれば、Aさんは救われるかもしれない。ただし、Aさんの心理的負担が大きくなるかもしれないため、Aさんのケアは必要
実際のプロのセラピストでしたら、もっと良い方法でシステムを変化させる介入をすると思いますが、このような介入によりパターン化したシステムを変化を試みます。もちろん、変えた後のシステムが良い方向に行くかわかりません。もし悪い方向に行った場合は、そのときはそのときに修正し、システムのパターンを変えていくことになります。
「個人、家族、学校、会社、地域など、対象を選びません。」と著者が言うように、システムズアプロ―チの可能性は、臨床現場だけではありませんので、勉強して損はないと思います。その知識が自分自身の人間関係を劇的に変えていくのは間違いないでしょう。しかし、著者は、症状・問題の除去だけが、システムズアプローチではないと言うのです。
たしかに、先ほどの私が考えたシステムを変えるは、何かが足りない気がします。何が足りないのか、本当に思いついた方法を試してみていいのでしょうか?
セラピストのあり方とは
本書はシステムズアプローチのテクニックというより、セラピスト個人が第三者としてどうあるべきかが伝えられており、そのあり方を対人援助の面接に活かす方法が語られております。
私に足りないのは、システム変えようとする私のあり方です。では、どういうあり方ならよいのか?
それは、対人援助を仕事とするセラピストのあり方から、気づきを得ることができます。
対人援助と教育のプロは、少しでもP要素を強く保持するよう努めなくてはなりません。
セラピスト誕生(P21)
システムズアプローチの目的について、かつての私は、「症状・問題を含むコミュニケーションの連鎖(パターン)を変更すること」といった表現で、症状・問題の除去をその中心課題にあげていました。
しかし、現在の私は、症状・問題そのものにはほとんどこだわらなくなりました。
システムズアプローチとは、「セラピストと対象者(クライエント・家族および関係者)間の循環作用を用いて、P優位型(やがてはP強化型)対人システムを形成し、結果的に個人個人のP要素を強めること」であると考えています。セラピスト誕生(P22)
セラピスト(対人援助)は、どうあるべきか?
それは、「自分自身はP要素を強く保持すること」です。なぜなら、自分自身のP要素によって、システムを形成している個人のP要素を優位にしていく必要があるからです。
先述したの職場の例ならば、私のP要素によって、上司・Aさん・BさんのP要素を優位にしていくことが重要なのです。私に足りないものは、私自身が‘P要素を強く持っていたかどうかでした。
では、P要素とは何でしょうか?
P(ポジティブ)要素とN(ネガティブ)要素
P要素については、次のように説明されています。
「利他主義」「精神主義」「肯定的意味づけ」を、本書では心の「P(ポジティブ)要素」と呼びます。
「利他主義」とは、自分の利益よりも他者の利益を優先する姿勢のことです。その背景には「精神主義」が存在します。精神的な喜びを重視することです。「肯定的意味づけ」とは、現象の受け止め方の一方法で、日常生活上のさまざまな出来事に対して、それを良いこと・価値あることとして意味づけることです。セラピスト誕生(P4)
P要素とは、ポジティブ思考のことかというと単純にそうとは言えなそうです。嫌いな人を好きと思うのは無理があるからです。そうではなく、「嫌いな人だとしても、自分に対して何かは教えてくれているはず」と、その点に着目してみるのです。たとえば、「ああいう振る舞いをしてはいけないということを教えてくれている」というように。そう肯定的解釈を用いましょうというのがP要素です。
そして、P要素があるということはN要素もあります。N要素の説明を見てみましょう。
一方、「利己主義」「物質主義」「否定的意味づけ」は、本書では心の「N(ネガティブ)要素」と呼びます。
「利己主義」とは自分の利益を重視し、他者の利益を軽視あるいは無視する姿勢のことです。背景には「物質主義」が存在しがちです。物質主義とは、お金や物(人)などの獲得・所有などを重視することです。「否定的意味づけ」は、日常生活で生じるさまざまな出来事に対して、それを悪いこと・価値のないこととして意味づける方法です。セラピスト誕生(P5)
著者が、対人援助と教育のプロならP要素を優位にすることについて重視してしている理由は、「自分自身がN要素の強い状態であってはならず、P要素の強い状態でなければ、相手のN要素をP要素に変化させることができない」と考えておられるからのようです。
そして、その筆者のお考えは、対人援助と教育のプロだけでなく、私たちのような普通の人にも大事なことです。なぜなら、私たち一人一人が、自分とかかわっている人達の良い面を引き出してあげることができるならば、よい人間関係(システム)を構築が期待できるからです。
例えば、先述したある職場の例の登場人物については、次のように肯定的に見ることができると思います。
上司 | 現時点ではAさんに嫌われていても、Aさんに仕事を任せようとすることができる人です。普通なら自分を嫌いな人に仕事任せようとしないでしょう。感情的にならない点は肯定的に見ることができ、その冷静な目でBさんを見ていただくようお願いすれば、Bさんがいっぱいいっぱいであることに気づき、仕事の頼み方を考えてくれるかもしれません。 |
Aさん | 現時点では、依頼を上手に断ることができる高いコミュニケーション能力があるとも言え、そのやり方をBさんに教えてあげることができるかもしれません。愚痴は聞かなくてもいいのです。 |
Bさん | 自分が忙しても仕事を引き受けるということは、自分より全体を優先できる考え方の持ち主かもしれません。その全体の中に自分を含めていただき、自分を見つめれば、仕事を抱えてこなしきれないことに気づき、仕事を断ることも全体のためになることに気づいてくれるかもしれません。 |
私に足りないのは自分自身あり方です。ただ人間関係のシステムを変化させようとあれこれ介入するのではなく、私自身がP要素を強くもち、上司・Aさん・Bさんの肯定的な一面を引き出してシステムが変化するような援助をしていくこと。そんなあり方や方法が大事であり、そのあり方こそが、自分の器を広げることにつながるのでしょう。
自身のP要素で相手のP要素を引き出そう
先の職場の例に戻りますが、私は上司に次のように働きかけました。
①上司からAさん、Bさんへの仕事依頼をストップするよう働きかける
⇒上司からの仕事依頼がなければ、AさんBさんは苦しむことがないため
このような働きかけは、上司の感情に配慮がありません。上司からしたらまるで自分が悪いと言われているよう感じるかもしれないからです。上司が自分を責め、心の病気になってしまうことも考慮されておらず、こんなやり方を考えた私は最低なクズなのです。
「あなたは、冷静な対応ができる人のように思われますが、そう言われてたことありますか?」⇒YESなら「そこで、その冷静な目で、なぜBさんの状態が悪化したか考えてほしいのです。どんなことが考えられるでしょうか?」
このような働きかけなら、上司は自らの考えで、自分の行動を変えてくれるかもしれません。最初のやり方より、断然よくなってます。ただし、このやり方は、この上司が「冷静な人」という私の肯定的な言葉を「YES」と受け入れてくれた場合の話です。「NO」として受けいれなかった場合は、どういう言葉なら受け入れてくれるかさぐり、その文脈でかかわっていきます。「冷静な人」より「優しい人」の方を受けれてくれたなら、その文脈で話を進めていくのです。そのためには私自身が、上司のいろんな一面を肯定的に表現できなければなりません。繰り返しになりますが、だからこそ、自分自身のあり方として、普段からP要素を強く持っている必要があるのです。
本書には、ある教育現場の不登校に関する実践例が紹介されています。そこで中心になった登場人物、淺谷先生の活動が、まさに職場でのシステムズアプローチの使い方として参考になると思います。淺谷先生は関係者とのコミュニケーションにおいて、ネガティブなコミュニケーションが循環しないようポジティブなコミュニケーションの循環を心がけて、誰も責めずに問題を解決されました。ご興味がある方は本書54ページ以降をお読みいただければ幸いです。
人・組織とのコミュニケーションにおいて、相手の発する言葉を常に肯定的に捉えることは、抵抗を極力生まずに、組織・個人に変化を与えることができるというイメージを持つことができると思います。
誤解がないように補足させていただきますが、本を読んだだけでシステムズアプローチができると言ってるわけではありません。その点は、ご理解いただけたらと思います。
セラピスト誕生:まとめ
心の器はP要素を優位にすれば広がるのか?
無礼な人は一生無礼のまま、そんな人のために忍耐し、器を広げる努力するくらいなら無視した方が楽です。でも、どこかで器の大きな人になることに憧れていたのも事実です。
では、人の器は、どうしたら大きくなっていくのでしょうか。
私は、人間関係の理不尽なことにも耐え忍び、怒りを抑え、悲しみを乗り越えて、大きくなるもの。そんなイメージをもってました。
しかし、本書を読むことで考えがかわりました。自分のP要素を優位にして、相手のP要素を引き出していくことで、人間関係のシステムを変えることができるのです。我慢とか忍耐以外の方法で対人関係を良好にする、自分の心のあり方でP要素を優位にすれば、そういったことができるわけです。
本書P45に7行程度のクライアントの言葉があり、そこから14個の肯定的見方が紹介されています。個人的には本書の見どころの一つなのですが、私は、そのクライアントの言葉から肯定的な表現を思いつきませんでしたので、いかに自分自身のP要素が弱いものであるかがすぐにわかりました。そして、日頃の訓練でP要素を強くすることはできるのです。
この本書P45の内容および東先生に対し、心の器が大きいと私が感じたことを考慮すると、P要素を優位にすることで心の器は大きく育っていくものなのかもしれないと思った次第です。少なくとも著者の書籍を読むと、やさしさや経験や忍耐により大きくなるというのは、偏った考え方である気がします。
私の器なんて大きくなるわけがないとあきらめず、P要素を優位にして、人を見る目を養いたいと思います。もし、行き詰ったら、そのときは本書を読み返せばいいのです。