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例えば、上司もしくは転職時の面接官に「あなたは部下とコミュニケーションとするとき、どのようなことに気をつけてますか?」と、質問されたとき、どのように回答されますか?
アホな私はの場合は、「相手の気持ちを考えて・・・、よく話を聞いて・・・」と回答するかもしれません。この回答ではよく考えていないことがバレバレで印象が悪くなりそうですね。
では「成人発達理論の発達段階に応じたコミュニケーションします。同時に相手自身の力で成長するような支援を心がけます。」と回答したらどうでしょう。先ほどの回答より良さそうですね。
その成人発達理論での部下支援とは、どういったものであるか。具体的なところに触れたいと思います。
目次
なぜ部下とうまくいかないのか②
発達段階に応じたコミュニケーションとは
なぜ、発達段階に応じたコミュニケーションを取る必要があるのでしょうか。その理由を知るためには発達段階とは何かを知る必要があります。
成人発達理論の発達段階は次の5つです。
発達段階1 | 具体的思考段階 | 子供 |
発達段階2 | 道具主義的段階(利己的段階) | 成人人口の10%程度 |
発達段階3 | 他者依存的段階(慣習的段階) | 成人人口の70%程度 |
発達段階4 | 自己主導段階 | 成人人口の20%程度 |
発達段階5 | 自己変容・相互発達段階 | 成人人口の1%未満 |
各段階の説明は前回の記事をご確認ください。(発達段階1は子ども、2以降が成人です)
上記は何の発達段階かと申しますと、それは「意識」のことです。人は、それぞれ独自の世界観を持っていますので、世界の見え方は人それぞれであり、質的にも差異があります。その世界観の差異を発達理論では「意識段階(レベル)」と呼んでいます。そして、意識段階には高低のレベルがあり、そのレベルを発達段階と呼んでおります。
また、発達理論の世界では、自分よりも上の意識段階を理解できないと言われているそうです(本書P45)。つまり、発達段階2の人は、発達段階3の人の意識を理解できないということになります。
発達段階ごとに固有の世界観があること、自分よりも上の発達段階の意識を理解できこと。だからこそ、発達段階に応じたコミュニケーションが必要なのです。
では、それぞれの発達段階の方の成長をサポートする上で、どんな対応をすればよいのか。本書から学んだことを記したいと思い餡巣ます。
発達段階2:道具主義的段階の場合
発達段階2は、道具主義的段階(利己的段階)と呼ばれており、自らの関心ごとや欲求を満たすために、他者を道具のようにみなすという特徴があります。例えば、「あの人は使えない」「あの人は使える」という言葉をよく使う人は、発達段階2の可能性あります。ただし、どういう文脈で使っているか注意する必要があります。
また、発達段階2の人は「二分法的な世界観」を持っていると言われています。「二分法的な世界観」とは、自分の世界と他者の世界を真っ二つに分けてしまうような認識の枠組みです。つまり、自己中心的な認識の枠組みのため、他者の世界観への理解が及んでいないのです。
では、そのような発達段階2の人に発達段階3へ成長を促すにはどのような対応が必要なのかと言いますと、自己中心の視点から一歩離れた視点を取ってもらうような問いを投げかけるということです。例えば下記のようにです。
例:「〇〇さんは、どういう意図で君にこの仕事を頼んでいると思う?」
ここで、「そんな質問面倒だ。〇〇さんの気持ちを伝えればいいじゃないか!」という疑問もあると思います。しかし、前述したとおり、自分よりも上の発達段階の世界観を理解できないため、好ましい対応方法ではありません。他人の気持ちを教えられても理解できない可能性が高いのです。ですから問いを与えて自分の力で認識の枠組みを広げていただく必要があります。
しかし、「そんなことしていたら時間がかかるじゃないか!」と思いますよね。その疑問にはこのような答えになります。
人間の成長・発達というのは、一夜にして成し遂げられるようなものではないのです。言い換えると、私たちは多くの時間をかけて、非常にゆっくりとしたペースで成長・発達を遂げていくのです。
キーガンが指摘しているように、成人は、一つの段階を少なくとも5年から10年、あるいはそれ以上の年月をかけて成長していきます。なぜ部下とうまくいかないのか(P86)
人はそんなすぐには変わりませんね。自分がそうなのに他人にすぐ変わることを求めるのはおかしな話ですよね。だからといって、職場で何年も待てばよいのかというと、そうではありません。成長に対し適切な鍛錬をしていけば、その時間を短縮できる可能性があります。その短縮するための一つとして、成人発達理論があるわけです。
発達段階に応じたコミュニケーションだけでなく、相手の成長を待ってあげるのも仕事かもしれませんね。
なお、成人発達理論の提唱者ロバート・キーガン氏の記事のリンクを貼っておきますので、是非お読みいただければ幸いです。
発達段階3:他者依存的段階の場合
発達段階3は、他者依存的段階(慣習的段階)と呼ばれており、組織や集団に従属し、他者に依存する形で意思決定するという特徴があります。例えば「会社の決まりではこうなっているから」「上司がこう言ったから」という言葉を多用している人は発達段階3の可能性があります。日本人に多いタイプですね。そして、どういう文脈で使っているか注意する必要があるのは、発達段階2と変わりがありません。
では、そのような発達段階3の人に発達段階4へ成長を促すにはどのような対応が必要なのかと言いますと、自分自身の意見は何かと問いを投げかけるということです。例えば下記のような問いです。
例:「この仕事をより効率的に進めていくためには、どんなことが必要になるか、あなたの意見を教えてください」
発達段階3は発達段階2と違って、相手の立場に立って物事を考えることができますが、自分の内なる声に気づけていないことが多く、他者の意見に依存しています。
そのため、自分の意見に気づき表現できるような支援、つまり自律的な行動ができるような支援が望ましいのですね。
発達段階4:自己主導的段階の場合
発達段階4は、自己主導段階と呼ばれており、自分なりの価値体系や意思決定基準を持つことができる特徴あります。
しかし、発達段階2も自己主張しているため、その違いがわかりずらいと思いますが、本書ではこのように説明されていますのでまとめてみました。
振る舞い | 他者の捉え方 | |
発達段階2 | 自分の欲求や願望に基づく | 自分の欲求や願望を満たすための道具とみなす |
発達段階4 | 自分の価値観や高度な規範に基づく | 他者にも独自の価値体系があることを認識している |
こう比較すると、人間ができていて支援する必要ないように見えますが、発達段階4にも限界があります。それは、自分の価値体系に縛られてしまうということ。また、自己成長へ強い関心があります。そのため、「私は今まで自分の力でここまで成長してきた。」とか「あなたの意見は聞かない自分の力で乗り越えられる」というような言葉を言われるかもしれません。
自分の内側に向きすぎているがゆえの悩みでしょう。また、自分の成功にこだわりすぎて他者の意見を軽視している可能性もあります。そんな発達段階4を発達段階5へ導くためには、他者の捉え方がカギを握ります。ここでもう一度外に目を向けていただくのです。発達段階2は、他者への理解をサポートしました。発達段階4の場合は、他者の存在が自分の成長に不可欠だという認識を持つことができるようサポートすることです。例えば次のような問いです。
例:「今までの成功は、誰の支援の元、達成できましたか?」あるいは「自分の主張を客観的に眺めてみてどう思う?」
自分の力だけで成長してきたと囚われては、人として成長が止まるのは想像できることです。そこで「自分の力だけでなく、いろんな人に助けられて人は成長する」ということを認識していただくこと、また、自分の意見を客観視していいただくこと、そんな問いを与えることで、他者が自己成長に必要不可欠であることを認識し、発達段階5へと成長していけるようサポートするわけですね。
※補足
自己成長には、垂直的な成長と水平的な成長があります。それぞれの説明は次のようになります。
垂直的な成長:意識の器の拡大、認識の枠組みの変化
水平的な成長:知識やスキルの獲得
自分の力だけで成長したと思っているなら、それは水平的な成長の話かもしれません。しかし、他者の存在に感謝できえば、垂直手な成長ができるようになるのです。
部下育成に失敗しないためにはどうすればよいか
これまでは、本書で学んだ発達段階に応じたコミュニケーションの話をしてきました。しかし、成人発達理論での部下育成には、注意すべき点もあります。その点について書きたいと思います。
部下育成において抑圧や差別をしてはいけない
発達段階の数字が上がっていくことで、物事を広く深く捉えることができます。すなわち人としての器が大きくなっていきます。しかしながら、数字が低いからと言って、レベルが低いと抑圧や差別をしてはいけません。そのことが書かれている箇所を引用します。
一般的なランク付けは、「ランクの高い方が良く、ランクが低いことは悪い」という前提があるため、その結果、ランクが高いものがランクが低いものを抑圧することが起きたり、差別が生じたりします。
例えば、「あの人は、こういうレベルにいるから、これ以上の仕事を与えないようにしよう」「あの人は、このレベルにいるからダメなんだ」というような考え方が生まれてきます。一方、発達理論におけるレベル分けでは、こうした抑圧や差別を認めません。発達理論の世界では、各意識段階は固有の価値を持っていることを尊重します。
なぜ部下とうまくいかないのか(P43)より
通常、ランク付けは優劣を表しますが、発達理論では優劣を表してません。もし「あいつは発達段階2だから、この部署にはいらないな」と思ったとしたら、いらないという言葉を使った時点で、ご自分も発達段階2ということになります。人のことを言ってる場合ではないことを自覚する必要があると思います。
それでも「発達段階が高度になるのはいいことではないか?」と、思いたくなるかもしれませんね。上には上の苦労があるのです。
発達段階が高度になっていくにつれ、必ずしも生きることが楽になったり、人生が良くなったりするとは言えません(P228)
発達段階が高度になればなるほど、突きつけられる課題がより過酷なものになるため、間違っても「発達することは良いことだ」と短絡的に考えてはならないと思ってます(P229)
「役職が上がったところで幸せになったとは思えない」という管理職の方もいるように、発達段階も上がった方がいいとは必ずしも言えないようです。
だからこそ部下の育成は、本人の気持ちを理解してあげながら、慎重に行わなければならないのす。本人が望まないのに意識を上げるような対処をしても、本人が幸せになれないのでは意味がないわけです。
それに、強制的に成長させると弊害が生まれます。
ピアジェ効果とは?
ピアジェ効果とは何でしょうか。著者加藤氏のブログ記事をご覧ください。
簡単に言えば、ピアジェ効果というのは、無理に成長・発達を促そうとすると、どこかで成長が止まってしまうということを示す概念です。もし、上司が無理に部下の成長を促した結果、その部下の後の人生での成長が止まってしまった場合、上司は責任取れるのでしょうか。そういうことを理解しないで人の成長に関わっている方がどれほどいるのでしょう。
人の成長にかかわるならピアジェ効果にならないよう気をつけましょう。人の成長速度は人それぞれであり、ゆっくりなので、部下育成が会社の命令であったとしても、無理に急がせてはいけません。
なぜ部下とうまくいかないのか②:まとめ
人の未来を意識して人材育成できるか
今回は、発達段階応じたコミュニケーションの取り方と気を付けるべき点について語ってきました。ご自分の普段の育成方法に、成人発達理論を加えることで、見えてくるものがあるのではないでしょうか。
会社の役割として人を育てる仕事をしているなら、自分の育成によって部下の未来の人生にどう影響を与えるかまで意識することはほとんどないでしょう。
しかし、実際は影響を与えてしまうかもしれないことを意識する必要があります。そして、影響を与えてしまうかもしれないなら、良い影響を与えるよう努力したいものです。その努力は、きっと自分の発達段階が上がっていくことにつながると思います。
今回は書籍から学べたことを書きましたが、書籍は入門編です。もっと詳しく学ぶなら、本書の著者加藤洋平氏のブログから「【PDF版翻訳書】心の隠された領域の測定:成人以降の心の発達理論と測定手法」をご購入されるとよいかと思います。