成人発達理論



仕事で能力が発揮できない人には、どのように対応すべきか?

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相手(部下・同僚など)がなかなか仕事を覚えてくれないばかりか、ミスしまくりで尻ぬぐいに追われると、相手(部下・同僚など)に対してイライラしたり、相手の行動一挙手一投足が気になって、きつめの言葉を発することもあるでしょう。しかも、そんな意地悪みたいなことをした後、やらなきゃよかった(言わなきゃよかった)と反省してしまうこともあるでしょう。反省するくらいならやらなきゃいいのですが、無理なんですよね、もはや顔を見るとつい言葉が出てしまうところまで、教える方も追い込まれているのです。このような人間関係が続けば、自分や相手が疲弊するだけでなくメンタルにもよろしくないですし、職場環境も悪化させてしまいます。

しかし、何度も同じように説明し、マニュアルもわかりやすく改善しても、肝心な相手が努力せず、そのせいで成長が見られないと、教える方も冷静でいられるわけありません。こういった状況をなんとか改善するためにも、どういったアプローチをすればよいのでしょうか。

成人発達理論による能力の成長②

変動性とノイズについて

「仕事ができない人」との関係をどう改善するか。

本来なら、普通に仕事を覚えてくれれば(この普通という感覚は教える側の主観になってしまいます)、お互いが疲弊するところまで発展しませんので、相手が努力して仕事を覚えてくれればよいのではないかと思うところ。つまり相手の要領次第と考えがちです。

しかし、本書のダイナミックスキル理論というフィルター通して、仕事を教えることや仕事を覚えることにういて考える場合、押さえておきたいのが、前回の記事でも書かせていただきましたが、人の能力が持つ「環境依存性」と「課題依存性」という特徴です。

ですから、人は、不慣れな場所や不慣れな課題が与えられた状況では、すぐに能力を発揮することも難しいですし、求められた能力が成長するまでに時間がかかって当然なのです。

成長速度に個人差があるにせよ、人の能力を成長させていく上で押さえておきたいポイントがあります。それは「変動性」です。

これまで見てきて、私たちの能力が持つ「環境依存性」や「課題依存性」の特徴を踏まえると、私たちの能力が持っているポイントは何でしょうか。
一言で述べると、それは「変動性」です。変動性とは、能力の種類やレベルのばらつきのことです。私たちの能力は、置かれている状況や取り組む課題に応じて、ダイナミックに変動するものです。置かれている状況や取り組む課題が変われば、私たちの能力の種類やレベルが変動することは先述したとおりです。ここで重要なのは、変動性をもたらすのは、私たちを取り巻く環境や取り組む課題だけでなく、私たち自身である、ということです。

成人発達理論による能力の成長 ダイナミックスキル理論の実践的活用法(P65)

そして、「変動性」ともに、もう一つ押さえておきたいのがノイズです。

端的に述べると、変動性とは、学習や実践の中における意図的に発生する変化であり、ノイズとは、学習や実践において不可避に発生する変化である、という違いです。つまりノイズというのは、私たちが何かを学ぶ時や実践する時に、意図的ではなく、自然に混入してしまう変化

成人発達理論による能力の成長 ダイナミックスキル理論の実践的活用法(P69)

つまり重要なことは、状況や課題の中にどのようなノイズが混入しているかを特定し、これまで無意識的なものであったノイズを、意識的なものに変えていくことです。言い換えると、ノイズを変動性に変えて行くことが大切になります。

成人発達理論による能力の成長 ダイナミックスキル理論の実践的活用法(P71)

変動性とノイズについては、言葉だけで理解するのは難しいかもしれません。ランニングを例にしますと、一定のペースで走っていて単調に感じたのでスピードを上げてみたというケースでは、単調に感じていたのが「ノイズ」であり、スピードを上げたのが「変動性」といったところでしょう。このようにノイズに気づいて変動性を調整した結果、走力があがったとしたら、能力が成長したことになります。
英語学習でも同じです。学んでいて自分がどこまでレベルアップしたかを確認しよう(現在安定的なため)と、外国人と話してみた(少し高いレベルを試した)というのも、ノイズに気づいて変動性を調整した例です。

このように、「ノイズ」と「変動性」は、能力を成長させるために押させえておきたいポイントです。そして、ノイズは、1種類ではありません。

3種類のノイズ

人を取り巻く環境は、絶えず変化しています。変動性だらけの世の中と言えますね。当然、ノイズも一定ではありません。下記のように3種類あります。

ホワイトノイズ 最も変動性が激しいノイズ。実践者がこのノイズを発している場合、不安を抱える傾向がある。変動性を下げて、安定性を高めることがポイント
ピンクノイズ 変動的過ぎず、安定的過ぎずなノイズ。理想的な状態。
ブラウンノイズ 最も変動性が安定的なノイズ。実践者がこのノイズを発している場合、退屈さを感じている傾向がある。変動性を高め、より高い課題に提供してみることがポイント

仕事で能力が発揮できない人は、何ゆえ発揮できないのか?

それは、「環境依存性」や「課題依存性」によるものかもしれません。そして、教える側が、自分が与えた課題が相手にとって、ピンクノイズの状態だったかどうかを意識していたかどうかについては、意識できていなかったのではないでしょうか。何度も同じミスを繰り返すということは、ホワイトノイズが発生している状態と思われ、この場合は、与えた課題のレベルを下げてあげたり、課題を変えたりなどの対応が考えられます。相手の能力が低いと決めて、マニュアルを改善しただけでは、不十分かもしれないのです。

そこで考えたいのが、成長を促すトレーニング方法です。

ニューウェルの三角形とは

成長を促すトレーニング方法として、ニューウェルの三角形というモデルがあります。

「ニューウェルの三角形」とは、私たちが何らかの能力を高めようとする場合、「人、環境、課題」の3要素とそれらの相互作用を常に考えなければならない、ということを指摘する考え方です。
「人」「環境」「課題」という3つの要素を考慮に入れるというのは、フィッシャーが説く、その人が持っている能力の種類とレベル、環境という状況の性質、そして課題の性質を考える必要がある、という考え方に非常に似ています。
ニューウェルの指摘で非常に重要なのは、「人、環境、課題」という3つの要素には、それぞれ固有の制約条件(限界)があるということです。
つまり、私たちが能力開発に従事する時、これらの制約条件を加味しながらトレーニングする必要があるということです。

成人発達理論による能力の成長 ダイナミックスキル理論の実践的活用法(P71)

※文中のフィッシャーとは、ダイナミックスキル理論提唱者、カート・フィッシャー教授(ハーバード大学教育大学院教授)のことです。

制約という言葉がわかりずらいので、本書の説明から補足しますと、以下のようになります。
・人の制約:心理的・身体的な制約のこと
・課題に関する制約:課題の種類や難易度
・環境に関する制約:設備的、文化的な制約のこと

仕事で能力が発揮できない人のために、マニュアルや手順書を改善した場合は、環境に関するアプローチ、褒めてみた、厳しくしてみたなどは、人に関するアプローチであると言えそうですね。そこまでしても、ミスばっかりで成長しなかった場合、「仕事ができない人」というレッテルを貼ってしまいイライラし始める自分がいるかもしれませんが、まだ課題へのアプローチが残っています。「ツールが使えないのかな? 今の仕事が合わないのかな? であるならば、こんな仕事を頼んでみたらピンクノイズになっていくかな?」こんなアプローチができるのです。

私が同僚に仕事を教えていたときのことを振り返りますと、その同僚は本当にミスが多く、一人で仕事ができない期間が結果として2年近く続きました。その2年間の主な対応としては、ヒアリングして本人の要望に応える(人の要素)、マニュアルや手順書の改善(環境の要素)、何度も同じことを質問してくるが教える(人の要素)、自分で調べてもうらうようにする(人の要素)、仕事の量を増やして経験値を上げてもらう(課題のレベルアップ)などの対応してました。

一見、ニューウェルの三角形どおりの対応をしていたように見えます。しかし、私は3種類のノイズを意識していませんでした。あくまでも同僚のパフォーマンスをみて、いい状態かどうかを判断していたのです。しかし、2年間も成長らしい成長がみられなかったわけですから、ずっとホワイトノイズだったかもしれないのです。であるならば、課題のレベルを下げるような、例えば、単調な作業をメインに担当してもらうなどの対応をしていれば、違った結果になっていたかもしれません。(実際に、単調な仕事をしていたとき伸び伸びしてました。)

イライラしたり、厳しい態度をとったりしていた私は、そんなことをしても、自分も相手も成長しないことに気づけないほど未熟だったのです。ダイナミックスキル理論をとおして、その未熟さに気づけたおかげで、同じ間違いを繰り返さなくてすみそうです。

成人発達理論による能力の成長②:まとめ

仕事ができない人への教え方を工夫することこそ能力の成長

新しく仲間なった人が能力を発揮できないのは、能力が持つ「環境依存性」や「課題依存性」の特徴によるものであることがわかりました。
そして、能力を成長させるためには、ニューウェルの三角形モデルの各要素に注目しつつ、3種類のノイズに応じて変動性を調整することが、人の能力の成長を支援するためのアクションプランなのです。そのような工夫こそ教える側の教える能力の成長につながるわけです。イライラしているだけでは得ることができない能力ですね。

前回と今回で、ダイナミックスキル理論にスキル理論に触れてみました。しかし、それはほんの一部であり、今回は触れませんでしたが、「能力成長の5つの法則」、「5つの能力階層」や「点・線・面・立体の成長サイクル」、「13の能力レベル」など、非常に多くのことを学べる一冊です。仕事を教えていてイライラする人がいるなら、本書のダイナミックスキル理論を学んでみてはいかがかなと思います。まだまだやれることはありますよ。

追記:ダイナミックスキル理論がオンライン講座として誕生しました。ご興味がある方は学ばれてはいかがでしょうか。

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