もっと部下のやる気を引き出し、能力向上するよう育てろって言われても簡単ではありません。
組織の管理職やリーダー職、先輩という立場の方なら、どうやって新人や部下育成をしようかと悩むことも多いでしょう。自分の仕事だけでも精一杯なのに、新人や部下の育成に時間を取られ、なおかつトラブルの尻ぬぐいまでさせられたら、体は疲れ、心はストレスが溜まります。
それでも、自分のことよりも部下育成に力を注ぐ管理職の方もいると思います。そんな管理職やリーダー職など、部下育成という役割がある方には、発達理論をベースにしたコーチングがよいヒントになるのではないかと思いますので、参考になる本を紹介させていただきます。
「なぜ部下とうまくいかないのか」です。
目次
成人発達理論について解説されている本
本書はロバート・キーガン(ハーバード大学教育大学院教授,発達心理学者)の成人発達理論の解説本です。著者は加藤洋平氏で、ブログ「発達理論の学び舎」はこちらです。
心理学の本となると難しい本が多いのですが、この本は対話形式で進んでいくため、要点がわかりやすく伝わりました。忙しくて読書にあまり時間が取れない方でも、通勤電車の時間を利用してサラッと読めるかと思います。
ただし、通常の解説本ならどんどん理論の説明が進んでいくと思いますが、本書は主人公山口課長がコーチングを受けながら(気づきの質問を受けながら)会話が進んでいくため、読む人によってはテンポが悪いと感じるかもしれません。その点は好みがあると思います。
なお、本書で学べる発達や成長は何の発達や成長かといいますと、人の意識・器に関することです。
各章立ては次のようになってます。
第一章 何をすれば関係は良くなるのか
第二章 自分に関係することにしか関心を寄せない部下
第三章 上司には従順だが、意見を言わない部下
第四章 自立性が強すぎて、他者の意見を無視する部下
第五章 多様な部下との関わりから他者の成長に目覚める
各章末にまとめがあり、理解の助けになりましたし、巻末には参考資料として「5つの発達段階の要約」もありますので、振り返りやすく教養を深めることができます。
成人発達理論:5つの意識の発達段階
部下育成のポイント
成人発達理論によると、人の意識段階は大きく分けて5段階あります。そこで、部下育成の際は、部下の意識の発達段階を見極めて適切な接し方をしていくということです。
部下の意識の発達段階を見極めずに、「これが私の教え方だ!」と自分の考えを押しつけるような指導をしてはいけません。
「部下の意識段階に合わせて対応を変えること」これが、成人発達理論を活かした部下指導方法のポイントです。
では、意識段階には、どのような種類があるのでしょう。
成人発達理論:5つの意識の発達段階
成人発達理論の、5つの意識の発達段階について、巻末から引用します。ネタバレに気をつけつつ、各発達段階の名称と各段階の説明に当たる箇所「この段階は~」の部分を抜粋します。
発達段階1 具体的思考段階
この段階は、言葉を獲得したての子供に見られるものです。そのため、すべての成人は、基本的にこの段階を超えていると言えます。
発達段階2 道具主義的段階(利己的段階)
この段階は、自分の関心事項や欲求を満たすことに焦点が当てられており、他者の感情や思考を理解することが難しいです。自らの関心事項や欲求を満たすために、他者を道具のようにみなすと言う意味から「道具主義的段階」と形容されます。
発達段階3 他者依存的段階(慣習的段階)
この段階は、自らの意思決定基準を持っておらず、「会社の決まりではこうなっているから」「上司がこう言ったから」という言葉を多用する傾向があります。つまり、他者(組織や社会を含む)の基準によって、自分の行動が規定されているのです。この段階は、組織や社会の決まりごとを従順に守るという意味から、「慣習的段階」とも呼ばれています。
発達段階4 自己主導段階
この段階は、自己成長に関心があったり、自分の意見を明確に主張したりするという特徴を持ちます。
発達段階5 自己変容・相互発達段階
この段階では、自分の価値観や意見にとらわれることなく、多様な価値観・意見などを組み取りながら的確に意思決定ができるという特徴があります。なぜ部下とうまくいかないのか(P251~)参考資料より
発達段階1は子供の段階であり、発達段階2以降の4つの段階が成人だそうです。
発達段階に合わせた指導をすれば部下育成の悩みは解決か?
次のような考えの部下がいるとします。
一人目:わかっていないのに仕事を勝手に進めるし、聞く耳持たない
二人目:言たことしかできない
三人目:仕事は十分できているが自分の意見を押し通しすぎて人の意見を聞かない
さて、どの方も意識段階が違う部下ですが、どう指導したらよいのでしょう? 少しでも対応を間違えればパワハラ騒ぎになる昨今では、職場コミュニケーションの難易度は高いのリーダーも大変です。
しかし、本書には各発達段階の対応方法のヒントが説明されていて参考になります。「なるほど、発達段階2の部下はこういう特徴があるから、こういう質問を投げかけて、気づきを与えればいいのか」と、思わず納得してしまいました。
部下の言動などから、今、どの発達段階にいるか見極め、それに応じた対応方法で接するなんて、もっと早く知りたかったです。これから成人発達理論を知識として吸収してから、人の指導を出来る方が本当にうらやましいです。
部下育成に失敗しないためにも
成人発達理論ですが、きちんと注意すべき点もあります。
部下育成において抑圧や差別をしてはいけない
意識段階の数字が上がっていくことで、物事を広く深く捉えることができると考えます。ただし、数字が低いからと言って、レベルが低いと抑圧や差別をしてはいけないそうです。そのことが書かれている箇所を引用します。
一方、発達理論におけるレベルわけでは、こうした抑圧や差別を認めません。発達理論の世界では、各意識段階は固有の価値を持っていることを尊重します。
なぜ部下とうまくいかないのか(P43)より
もし「あいつは発達段階2だから、この部署にはいらないな」と思ったとしたら、いらないという言葉を使った時点で、自分も発達段階2「道具主義的段階」ということになります、気をつけなきゃいけません。
ピアジェ効果とは?
ピアジェ効果とは何かご存知ですか?
もしご存知でない方は、著者加藤氏のブログ記事をご覧ください。
簡単に言えば、ピアジュ効果というのは、無理に成長・発達を促そうとすると、どこかで成長が止まってしまうということを示す概念とのことです。人の成長速度は人それぞれであり、ゆっくりなので、部下育成であったとしても、急がせてはいけないということが学べました。
発達段階が高度になることが幸せとは限らない
「発達段階が高度になるのはいいことではないか?」と、思いがちですがあながちそうとは限らないようです。どういうことでしょうか?本書から引用してみましょう。
発達段階が高度になっていくにつれ、必ずしも生きることが楽になったり、人生が良くなったりするとは言えません(P228)
発達段階が高度になればなるほど、突きつけられる課題がより過酷なものになるため、間違っても「発達することは良いことだ」と短絡的に考えてはならないと思ってます(P229)
役職が上がったところで幸せになったとは思えないという管理職の方もいるように、意識段階も上がった方がいいと必ずしも言えないようです。
だからこそ部下の育成は、本人の気持ちを理解してあげながら、慎重に行わなければならないのでしょう。本人が望まないのに意識を上げるような対処をしても、本人が幸せになれないのでは意味がないです。気をつけたいと思います。
なぜ部下とうまくいかないのか感想
新しいリーダー像を目指そう!
読書しても、しばらくしたら忘れてしまうことが多いもの。でも、本書はなんとなく頭に残っています。それは、難しい発達段階の考え方が、ストーリー形式でわかりやすく伝わったからだと思います。明日からすぐに試せることもあり良書だと思いました。
今回ご紹介したポイントは本の一部ですし、読む人が変われば気づきのポイントも変わると思います。
コーチングなんて初めてだという方も、成人発達理論から学ぶのはチャンスなことだと思います。部下の意識レベルに沿った指導ができるなんて、かっこいいじゃありませんか。何より相手が救われると思います。
発達心理学をベースにしたマネージメントなんて、新しい感じがしますね。日本にはない新しいリーダー像ではないでしょうか。
本格的に学ぶのは難しいと思いますが、理論の基本を知ることで自分の意識改革ができ、それが部下育成の悩み解決につながるなら、勉強してみる価値があるかもしれません。